中島みゆきの「狼になりたい」に描かれたやるせない人間模様~〈吐きすて〉の歌の系譜④

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1979年にリリースされた中島みゆきのアルバム『親愛なる者へ』の収録曲に、24時間営業の飲食店を舞台にした『狼になりたい』という歌がある。
「♫ 夜明け間際の吉野屋では」と始まるこの曲を、ぼくが初めてNHKのスタジオで聴いたのはアルバムが発売になる直前だった。
歌い出しの1行目の歌詞で驚かされると同時に、心のなかで快哉をあげたことを覚えている。
日本にもついに一幕物の舞台劇、それもリアルな現実を描いて歌えるシンガー・ソングライターが登場してきたのだ。

「狼になりたい」
作詞・作曲:中島みゆき
夜明け間際の吉野屋では
化粧のはげかけたシティ・ガールと
ベィビィ・フェイスの狼たち
肘をついて眠る
なんとかしようと思ってたのに
こんな日に限って朝が早い
兄ィ、俺の分はやく作れよ
そいつよりこっちのが先だぜ
買ったばかりのアロハは
どしゃ降り雨で よれよれ
まぁ いいさ この女の化粧も
同じようなもんだ
狼になりたい 狼になりたい
ただ一度


店内の情景描写と心象風景、そこにある鬱屈や屈折、それらを自分の心のなかで語ったり、あるいは登場人物の代わりにつぶやいたり――。
そんなことばの断片が、が中島みゆきの歌声で綴られていく。
歌詞のイメージをふくらませる石川鷹彦のアレンジは包容感と緊張感があり、サウンドも印象に残るものだった。
NHK-FMで夜の10時台にオンエアしていた「サウンドストリート」という音楽番組でオンエアすると、リスナーからハガキで「心を撃ち抜かれた」とか、「頭をぶっ叩かれたようです」といった反応が寄せられた。
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向かいの席のおやじ見苦しいね
ひとりぼっちで見苦しいね
ビールをください ビールをください
胸がやける
あんたも朝から忙しいんだろ
がんばって稼ぎなよ
昼間・俺たち会ったら
互いに「いらっしゃいませ」なんてな


主人公の心の奥で溜まっていくやるせない気持ち、「みんないいことしてやがるのに‥‥」という妬みと不満――。
そんな気分を抱えたまま溜め込んで、それでも日々の暮らしを続けて生きている人々――。

人形みたいでもいいよな
笑えるやつはいいよな
みんな、いいことしてやがんのにな
いいことしてやがんのにな
ビールはまだかぁ


唐突に「ビールはまだかぁ!」ということばが店内に響く。
吐き捨てるようなその怒声から、中島みゆきのロック・スピリッツが感じられる。

俺のナナハンで行けるのは
町でも海でもどこでも
ねぇ あんた 乗せてやろうか
どこまでもどこまでもどこまでも
どこまでも
狼になりたい 狼になりたい
ただ一度
狼になりたい 狼になりたい
ただ一度


一瞬だけ想像のなかで思い浮かべる、希望的な未来――。
そんなつかのまの明るさもまた、「どこまでも」ということばを4回も繰り返すうちに、どうしようもないあきらめに覆われてしまう。
中島みゆきは日常で使われる話し言葉と字数がふぞろいの歌詞で、主人公の内面だけでなく、登場人物一人ひとりの気配まで感じさせて歌う。
そこから理不尽で酷薄な社会が、否応なく顏をのぞかせてくる。
(注)本コラムは2016年9月23日に公開されました。

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