ゲッタウェイ〜前代未聞のアドリブで伝説になったスティーヴ・マックィーンの代表作
1968年の主演作『ブリット』で、体制側である刑事役を演じたにも関わらず、“瞬間の演技”ともいうべき孤独感を貫き、やはり権力とは無縁のアウトローであり続けたスティーヴ・マックィーン。映画俳優として本当の自信を得て、長年思い描いてきた“マックィーン像”を遂に完成させた。
その後、ウィリアム・フォークナー原作の『華麗なる週末』(1969)、自らのカーレースへの情熱が全編に渡って流れた『栄光のル・マン』(1970)、サム・ペキンパー監督の『ジュニア・ボナー』(1971)と、同時期の世界的ロックバンドのように年に1作のペースで順調にキャリアを重ねたマックィーンだったが、私生活では深い溝と直面していた。売れない頃から一緒だったニール・アダムスとの15年の結婚生活を終えたのだ。
心機一転した43歳のマックィーンは、シドニー・ポワチエやバーブラ・ストライサンドやポール・ニューマンらと新たにFAP(ファースト・アーティスツ・プロダクション)を設立。その第1回作品となったのが代表作の一つ『ゲッタウェイ』(The Getaway/1972)だ。
『ワイルド・バンチ』『わらの犬』など、バイオレンスの巨匠として知られるサム・ペキンパー監督と二度目のタッグを組み、映画は大ヒット。脚本はウォルター・ヒル、音楽はクインシー・ジョーンズが担当した。
また、共演には『ある愛の詩』でスターとなった知性派女優アリ・マッグロー。34歳の彼女は映画会社の重役と結婚していたが、正反対のタイプであるマックィーンと恋に落ちてしまう。二人は撮影中に婚約を発表して話題になった。
撮影期間は1972年2月23日から5月10日の二ヶ月半。冒頭の刑務所シーンからラストの国境を越えるシーンまで、ストーリー展開に沿ってオールロケで進められた。映画は権力者の罠から逃れるアウトロー夫妻の逃避行もの。タイトルの“Getaway”には高跳び、事を上手く運ぶなどの意味がある。マックィーンの魅力が活かされた傑作として人気が高い。
実は撮影中、ペキンパーとマックィーンは脚本にはない“アドリブ”を仕掛けた。キャロル(アリ・マッグロー)の身勝手な危機一髪の行動に、ドク(スティーヴ・マックィーン)が冷静に怒り出すシーン。何とマックィーンはマッグローを何度も殴ったのだ。何も知らない彼女はびっくりしたに違いないが、カメラの前でそのまま演技を続けたとい..