カンバセーション‥‥盗聴‥〜コッポラ監督が『ゴッドファーザー』の次に手掛けた名作
『ゴッドファーザー』(1972)での成功以降、フランシス・フォード・コッポラ監督は物凄いスピードで仕事に取り組んでいた。舞台やオペラの演出、『華麗なるギャツビー』の脚色、『アメリカン・グラフィティ』の製作、そして監督・脚本を手掛けた『カンバセーション‥‥盗聴‥』(The Conversation/1974)。
この映画の脚本を書き始めたのは1966年。第1稿は1969年に完成した。プライバシーの問題を扱った映画を作りたいという想いが前からあった。「盗聴・尾行」といったことをモチーフにして、“されている側”より、むしろ“する側”の人間の心理や生き方というものを描くことによって、現代のサスペンスに仕上げたかった。
つまり、コッポラは73年に起きたウォーターゲートなど一連の事件をこの時点で知るべくもなく、「盗聴」を扱った映画を撮ろうとしていたということだ。インスピレーションを与えたのは、アントニオーニ監督の『欲望』であり、「録音の魔術師」と呼ばれた人物の記事だった。
この映画を「三楽章からなる音楽のように構成した」というコッポラ監督。特に同じ場面を何度も反復させ、次第に意味を持たせていく手法が画期的で、観る者を“する側”の世界に一気に引きずり込む。
街の防犯/監視カメラ、ネットの個人情報、ヒップホップやEDMのループ感にすっかり慣れてしまった現在の我々だが、それでもとても45年前の作品には思えないレベルのクオリティに驚く。主人公の孤独感をピアノ一つで見事に表現したデヴィッド・シャイアの音楽も素晴らしい。
オープニング。サンフランシスコのユニオン・スクエア広場。人々で賑わうこの場所で、散歩する一組の若いカップルの行方をいくつかの配置から目で追う男たちがいる。指揮するハリー・コール(ジーン・ハックマン)は盗聴のプロフェッショナル。20年のキャリアがあり、業界でその名を知らない者はいない腕利きだ。
ハリーの信条は好奇心を捨てること。それがたとえどんな内容の会話だろうと一切関心を持たず、言われた通りのものを完全にテープに収めて依頼人に届ければそれでいい。技術者として完璧な仕事をするだけ。決して関与してはならない。以前、ハリーの仕事によって秘密を暴かれた人物が殺された過去があり、その想いはより一層強くなった。
だから仕事の相棒にも厳しい。ハリーは私生活でもプライバシーを守り、プ..