完璧な映画を目指したチャップリンによって生まれた「スマイル」

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新型コロナウイルス感染症の問題が世の中に深刻な影を落とし始めて間もない2020年の春、サックス奏者の渡辺貞夫が自宅で撮影・録音したパフォーマンスを公開した。
演奏されたのは誰もが一度は耳にしたことがあるであろうスタンダード・ナンバー「スマイル」だ。



「スマイル」は1936年に公開されたチャップリンの映画『モダン・タイムス』の劇中音楽として生まれた。
作曲したのはプロの作曲家ではなく、映画で監督、役者、脚本などを手がけたチャップリン自身だ。
チャールズ・チャップリンといえば、印象的な口髭でお馴染みの映画スターで、20世紀を代表する”喜劇王”である。
サイレント映画が主流だった20世紀前半に、コメディー映画で世界的な人気を博し、その生涯で残した80本以上の映画作品は、後のエンターテインメントに多大な影響を及ぼしている。
彼は映画のテーマや骨格はもちろん、登場人物のキャスティングから小道具などにいたるまで、自身のイメージするものを完璧に表現したいという強い願望をもっていた。
そのために主演から監督、脚本などを自ら行っていたが、その領域は音楽にも及び、ついには作曲まで手がけるようになったのである。
「スマイル」はそのうちの1曲として生まれたわけだが、映画公開から18年後の1954年にナットキングコールが新たにつけられた歌詞を唄ったことから、スタンダード・ナンバーとして世界中で親しまれるようになった。


この曲が大好きだったというマイケル・ジャクソンも、1995年に発表した2枚組アルバム『HIStory』の最後にカヴァーして収録しており、追悼式のときには兄のジャーメイソンが、マイケルにこの歌を捧げている。


ところで映画音楽について、細野晴臣は自著『映画を聴きましょう』の中でこう述べている。

いずれにしろ映画の中でどういう音楽をどう使うのかは監督が決めることである。
信頼できる作曲家にすべてを委ねるにしても、それを判断するのは監督であるから、もちろんハリウッドの大作映画はそういうシステムではないのだろうが、やはり監督に音楽のセンスがあるかどうかで、その映画の音楽が素晴らしいかどうかが分かれてくるような気がする。
音楽のセンスがある監督といえばクリント・イーストウッドがそうだし、古くはチャールズ・チャップリンもそう。


どれだけ映画のセンスがあったとしても、音楽のセンスがあるかどうかは別の問題であり、ましてや作曲となればそう簡単にできることではない。
しかしチャップリンは自ら映画音楽を作曲することが、自身の映画を完璧なものにする上では最善の選択だと考え、それを実践したのである。



チャールズ・スペンサー・チャップリンは1986年の4月6日、ロンドン南部の街でプロの歌手だった父親と、女優の母親のもとに生まれた。
しかし両親がすぐに離婚してしまったので、母親に引き取られて貧しい幼少時代を送っている。
5歳のときには母親の代役として舞台で歌う経験をするなど、チャールズは少年時代から演劇や音楽に触れて育ってきた。そんなチャールズが、いつか役者になることを夢に描いたのは、ごく自然な成り行きだった。
チャップリンが本格的に役者としての道を歩み始めたのは、体調を崩した母親が入院してまもなくのことだった。
そしてヴォードヴィルの劇団に所属し、全国を回りながら芸を磨いていったのである。
ヴォードヴィルといえば劇に踊りに漫才、音楽、手品と様々な娯楽を一緒くたにしたエンターテインメントだ。
ここでもやはりチャールズのそばには、当たり前のように音楽が流れていた。
その頃からヴァイオリンやチェロといった楽器を劇団員から学び始めたというから、役者として演じるだけでなく、音楽に対しても強い関心を抱いていたことが伺える。
アメリカを巡業中だった1914年に、チャップリンは映画業界からスカウトされて銀幕デビューを飾り、そこから映画スターとして一気にブレイクした。
さらには自身が満足する作品を作るために、監督や脚本も手がけるようになっていった。
サイレント映画に変わって1920年代後半に音声付きの映画、いわゆるトーキーが主流になったとき、チャップリンはこの新しいシステムに対して、当初は否定的な立場を取った。
それまではセリフがない代わりに、パントマイムでストーリーや感情を表現してきたわけだが、その技術と発展が失われてしまうのではないかと危惧を抱いたからである。
そこでチャールズはトーキーを導入しないかわりに、劇中音楽を完璧なものにしようと動きはじめた。
つまり、みずから作曲を手がけるようになったのである。


1931年に公開された映画『街の灯』では、映画全編に渡って音楽を手がけ、音楽面での才能を発揮しはじめた。
『街の灯』は公開当時、トーキー映画でなかったことで、時代遅れの作品と酷評されたりもした。
しかし、その後はサイレント映画時代のチャップリンを代表する傑作として語り継がれている。
これを機にして、チャップリンはそれ以降の映画全てで作曲を手がけるようになった。
心のなかから浮かび上がってくるメロディーを、編曲のパートナーに採譜してもらって、レコーディングでもオーケストラに細かく注文を出すことによって、自分の中に鳴っている音楽を形にしていったのである。
おそらくチャップリンは映画のワンシーンが出来た段階で、そのシーンに合うメロディがすでに頭の中に流れていたに違いない。
だからこそ、プロの音楽家に作曲を任せることはせず、自ら作曲するという手段をとったのだろう。
映画を完璧にするための飽くなき努力と追求の中で、チャップリンはメロディーメーカーとしての才能を開花させ、「スマイル」は生まれたのだった。
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新日本フィルの生オケ・シネマ vol.5 
チャップリン《街の灯》

日時:2021年3月17日(水)18:15開演(17:30開場)
会場:すみだトリフォニーホール
出演:竹本泰蔵(指揮)/新日本フィルハーモニー交響楽団
チケット:全席指定(税込) 一般 5,000円/ペア券 8,000円(2枚1組)/高校生以下1,000円 
     すみだ区割(区在住在勤) 4,000円 すみだ学割1,000円(区在住在学の小・中・高校生)
お申込み・お問合せ
トリフォニーホールチケットセンター 03-5608-1212 (10:00~18:00)
https://www.triphony.com/
プランクトン 03-6273-9307(平日13:00〜18:00)
http://www.plankton.co.jp/
主催:公益財団法人墨田区文化振興財団(すみだトリフォニーホール指定管理者)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)独立行政法人日本芸術文化振興会

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