20センチュリー・ウーマン〜1979年に生きる女たちと音楽を描いたマイク・ミルズ監督作
『20センチュリー・ウーマン』(20th Century Women/2016)は、母と息子、そして女たちの物語でもあると同時に、社会や文化の変革期を捉えた作品だった。“時代の空気”という本来目に見えないはずのものが観ているうちに手に取れるような、そんな体験をさせてくれる119分間。優れた映画というのはエンディングロールで終わらない。観る者の心に枝葉を広げる。
アメリカの100年の歴史を大まかに辿ってみると、好景気に沸いたローリング・トゥエンティーズで幕開け、30年代の大恐慌、40年代の第二次世界大戦を経て、その後マイホーム主義の中でティーンエイジャーが台頭する50年代、ポップアートやヒッピーやロックといったカウンターカルチャー全盛の60年代が過ぎていった。
『20センチュリー・ウーマン』の舞台となるのは70年代の終わり。当時のアメリカ大統領ジミー・カーターは、任期最後となる1979年の夏に「自信喪失の危機スピーチ」として知られるTV演説を行った。
国民は今や人生の意義を見出せず、国のために団結することもない。我々の多くが崇拝しているのは贅沢と消費です。しかし、確かなのは、物質や消費行動だけでは生きがいは得られない、ということ。我々は長年、人類の偉大な歩みに貢献すべく自由を追い求めてきました。今、国は歴史の岐路にある。分裂と利己主義の道を選べば、誤った“自由”に囚われ、衰退の一途をたどるでしょう。(ジミー・カーター)
アメリカはこの後ロナルド・レーガン政権が生まれ、富への欲望が膨らんで、ヤッピーとエイズとMTVの80年代に突入。さらに90年代のインターネット革命、ゼロ年代の9.11や経済格差、現在のトランプ政権……といったように混沌とした時代の中を猛スピードで進んで行く。
脚本/監督はマイク・ミルズ。もともとデザイナーやアーティストとしての一面も持ち、NYアートシーンや郊外(サバービア)の風景を描くのがうまい人。前作『人生はビギナーズ』(2010)では、75歳でゲイであることをカミングアウトした父親と自身の関係を反映させて話題になったが、本作では母親に視点を移した。
「母を太陽とすれば、太陽の周りを回る惑星にはいろんな人たちがいる。なんだかちょっと凸凹な人たちがいる。それを1970年代後半のカルチャーも含めたポートレイトにしたいなと、ぼんやりだけど最初から考えて..