マイ・ブルーベリー・ナイツ〜撮影から帰宅直後の朝6時に曲を作ったノラ・ジョーンズ
撮影でネバダ州に向かう飛行機に乗り込む時、私のギターを見て撮影クルーの一人が笑うの。言ってやったわ。「何で笑うの? 私はミュージシャンよ」って。すると彼は「そんなの弾いてる暇なんてないと思うよ」。結局、彼が正しかった。1日だけオフがあって、2週間ぶりにギターを弾いて1曲作って、それだけ。
ブルーノートからデビューアルバムをリリースした2002年以降、ノラ・ジョーンズの音楽はあっという間に世界中に広まり、グラミー賞8部門受賞や2000万枚上のセールスを記録。彼女は幅広いファン層を獲得するとともに、著名なミュージシャンたちからも熱い視線を集めることになった。2005年にはレイ・チャールズと「Here We Go Again」をデュエットして再びグラミー賞を獲得。2004年のセカンドアルバムも2007年のサードアルバムも大ヒットした。
そんな彼女に今度は映画界からオファーがくる。『欲望の翼』『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』などで、香港だけでなく世界的監督となっていたウォン・カーウァイからだった。最初ノラは「映画用の音楽制作」の件で呼ばれたと思った。しかし、カーウァイ監督はノラを見つめてこう言ったそうだ。「演技してみないか?」
一番惹かれたのは彼女の声だよ。とても映画的で、上質な楽器の音色のようで。彼女の声を聞いただけで、映像を見なくてもストーリーが分かるんだ。
「街をさまよい歩く彼女の姿までイメージできた」というカーウァイ監督。一方でノラも彼の過去の作品を観て、こちらもすっかり魅せられてしまった。監督にとっては初の英語作品。そしてノラ・ジョーンズにとっては女優デビュー作にして初主演作。それが『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(My Blueberry Nights/2007)だ。
映画はニューヨーク、メンフィス、ラスヴェガスなどが舞台に選ばれた。最初は何もかも初めてのことで「自分が主演」していることに戸惑っていたノラだが、次第に慣れていった。
また、ノラはこの映画のために新曲「The Story」をサウンドトラックに提供している。これは夜が明けるまで続いたニューヨークの撮影から帰ってきた彼女が、朝の6時に作った曲。
その時、私はピアノが置いてある東向きの部屋に行って、太陽が昇るのを眺めていたの。とても美しかったわ。それから短時間で1曲書き上げた。..