クロッシング・ガード〜娘を交通事故で亡くした父親の“復讐”を描くショーン・ペン監督作
ブルース・スプリングスティーンの「Highway Patrolman」からテーマを得た監督デビュー作『インディアン・ランナー』(1991)で、それまでの「マドンナの夫」(85〜89年)や「パパラッチへの暴力」といった世間を騒がすスターのイメージから脱却したショーン・ペン。だが、本物を知る人たちには最初から分かっていた。彼は映画界の貴重な知的良心であることを。
『クロッシング・ガード』(The Crossing Guard/1995)は、そんなペンの監督第2作。傷ついた人間の心、葛藤する姿を描こうとする至極の名作。
一人でタイプライターの前に座っていたら、「クソッ、この役はジャック・ニコルソンだ」って気付いた。それで仕上がった脚本を彼に送った。3日して彼がやるよって電話をくれた。
ニコルソンにとっては、それはたくさん送られてくる脚本の一つに過ぎなかった。
たった90ページの脚本だった。特別な衣装もメイキャップも髪型も必要ない。大げさな演技も要らない。ただエモーションがあった。ストーリーではなく“人間の振る舞い”が中心にあった。ここ何年か出演してきた映画とはまったく違う自由があったんだ。「よし、やろう」と決めた。
共演には『インディアン・ランナー』で好演したデヴィッド・モース。かつてニコルソンの私生活での同棲相手だったアンジェリカ・ヒューストン。他にザ・バンドのロビー・ロバートソン、名優ジョン・サヴェージ。日本からは石橋凌の出演も話題になった。主題歌の「Missing」はブルース・スプリングスティーンが書き下ろし。サウンドトラックにはジュエルの「Emily」も収録されている。
また、本作はペンの親友でもあった作家チャールズ・ブコウスキー(1994年3月に他界)に捧げられている。この映画はブコウスキーが描いた短編小説の世界そのものだった。心が震えるラストシーンは彼が埋葬された墓地で撮影された。
クロッシング・ガードとは「交通安全指導員」のこと。交差点で子供たちや人々を誘導する係。この映画を観れば、なぜそんなタイトルが付けられたのかが分かるだろう。これが人生となると、行くべき道は誰も教えてくれない。ニコルソンは言う。
彼はもう何も感じることはできない。心の痛みを抱えていて、酒に溺れて女にも冷たい。周りの男たちも彼のことをまったく知らない。彼は怒りのために自分自身を..