ワーキング・ガール〜フェリー通勤で流れるカーリー・サイモンの名曲

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「時」と「場所」──これは映画のムードを作るための重要な設定だ。「いつの時代の」「どこを舞台にした」話なのか、これを決めておくことは、作り手あるいは観る者にとっても極めて有効に作用する。映画のジャンル問わずに。
特に広大な土地と多種多様な民族・文化を持つアメリカ映画ではこの点をスルーすることはできない。また、公開当時が最新の時代のものであっても、やがて時間の経過とともにこの点が自然と深みを帯びてきたり、思わぬ付加価値をつけてくれることもある。
例えば「ニューヨークが舞台の映画」といえば、あなたは何を思い浮かべるだろう? 1970年代にはウディ・アレン監督『アニー・ホール』(1977)やマーチン・スコセッシ監督の『タクシー・ドライバー』(1976)が強烈な印象を残した。60年代にはヘプバーン主演の『ティファニーで朝食を』(1961)やニューシネマの『真夜中のカーボーイ』(1969)があった。ジョン・カサヴェテス監督の『グロリア』(1980)やコッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972)が描いたニューヨークも忘れられない。
さらに先へと進んで、80年代後半のバブル経済期はどうか。舞台がその象徴であるウォール街となれば、やはりゴードン・ゲッコーなる非情なキャラクターを生んだオリバー・ストーン監督『ウォール街』(1987)が真っ先に浮かぶ。
『ワーキング・ガール』(Working Girl/1988)はその女性版というには無理があるが、夢と恋とビジネスに奮闘する姿は、男女雇用機会均等法が施行さればかりの当時の日本の働く女性たちにも少なからず刺激を与えた。
はっきり言って映画としては、今観たら平凡な出来かもしれない。企業買収や株式投資といった世界観はその後の経済映画で繰り返し描写されたし、主人公の出身地や学歴もネットがフル機能した今では大して意味を持たない。にしても『ワーキング・ガール』がいつまでも色褪せないのは、ニューヨークの風景や街の臭いが全編に漂っているからだ。
冒頭。スタッテン島からマンハッタンへフェリーで通勤するシーンはその最たる例。そこに流れるのはカーリー・サイモンの「Let The River Run」。これから起こるストーリーやヒロインの奮闘全てを包み込んだこの力強い名曲によって、秀逸なオープニングへと昇華した。
テス(メラニー・グリフィス)は証券会社で働く秘書OL。本人は最前線で働きたいと思うものの、エリートだらけの環境の中では学歴のない彼女の夢は叶いそうもない。セクハラ、パワハラは日常茶飯事の業界だ。
新たな上司は同い歳のキャサリン(シガニー・ウィーバー)。キャリアウーマンの彼女はテスに対して物分かりのいい素振りを見せるが、実はテスのとっておきのアイデアや情報を横取りしてしまう非情な女だった。
キャサリンの骨折入院がきっかけで代理業務を一任されるテス。そこで自分のアイデアがそっくりそのまま盗用されていることに気づく。同じ境遇の同僚や彼女に恋心を抱くトレイナー(ハリソン・フォード)からの協力を受け、テスの上昇物語が始まっていく……。
監督のマイク・ニコルズは語る。「誰しも悪戦苦闘しなけりゃならない人間が好きだ。テスもそう。彼女には実に強力で目に見えない障害がある。階級だ。彼女は高い知性を持ち、やりたい仕事に対しても非凡な才能を備えているけど、そうした仕事を手に入れるために必要とされる階級のパスポートのようなものを持っていない」
あれから30年以上が過ぎた。今の日本には、テスのような女性が果たしてどれくらい活躍しているのか。
主題歌はカーリー・サイモンの「Let The River Run」



DVD『ワーキング・ガール』

DVD『ワーキング・ガール』

*日本公開時チラシ


*参考・引用/『ワーキング・ガール』パンフレット
*このコラムは2020年1月に公開されました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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