
土曜の夜(Looking for) The Heart of Saturday Night〜70年代初期にトム・ウェイツが描いたアメリカの寂れた裏通り
行き交う車のエンジン音、クラクション、靴音…
夜の街の雑踏に溶け込んでゆくような穏やかなイントロに導かれて、あの“しゃがれ声”が語るように歌い出す。
カワイコちゃんをちょいと口説いて
自慢の車の中でその娘の肩に腕をまわす
そんな事を想いながら…
土曜の夜の相手を求めて車を飛ばす
1974年に発表されたトム・ウェイツの2ndアルバム『The Heart Of Saturday Night』のタイトルナンバー「土曜の夜(Looking for) The Heart of Saturday Night」について、ローリングストーン誌は、こんな風に評した。
「永遠の若さという幻想の残酷さを歌った、もっとも印象的で鮮烈な曲の一つ。」
前年の1973年に1stアルバム『Closing Time』をリリースしたトム・ウェイツは、自身のデビュー作の出来映えに満足できなかったという。
「もっとジャズ寄りの音にしたかった」とのこと。
そんな気持ちもあってか、この2ndアルバム『The Heart Of Saturday Night』ではボーンズ・ハウをプロデューサーに迎え、ジャズ色を全面に押し出す音作りを行なっている。
ボーンズ・ハウと言えば、オーネット・コールマンの代表作『The Shape of Jazz to Come(ジャズ来たるべきもの)』(1959年)やエラ・フィッツジェラルドのレコーディングエンジニアとして頭角をあらわした男。
60年代の始めには、フランク・シナトラやメル・トーメのアレンジも任されるようになる。
ママス&パパスのヒット曲のエンジニアも務め、1965年にはザ・タートルズがカヴァーしてヒットさせたボブ・ディランの曲「It Ain’t Me Babe」(チャート首位)で初めてプロデューサーとしての仕事を経験する。
以降、ハウは“サマー・オブ・ラブの時代”そして“モンタレー・ポップ”を象徴するサウンドを作った立役者の一人として知られるようになる。
後にハウはトム・ウェイツとの初対面の思い出をこう語っている。
「私は彼に、君の曲と詞からはケルアックの影響が感じられると言った。すると彼はひっくり返りそうになって驚いてたよ。わたしがジャック・ケルアックを知ってるなんて夢にも思わなかったんだろう(笑)」
本作には、トム・スコット(サックス奏者)やマイク・メルヴォイン(..