3歩後ろの恋~第2回

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先生と生徒だから、学校以外の所では二人きりでは会えない。

この理科準備室だけが唯一二人きりになれる場所だ。

放課後は時々、ここで二人で過ごしていた。

だけど、私の受験で忙しくなってからは、先生とは廊下ですれ違うだけだった。

進路も決まって、ようやく時間が出来たと思ったら、今度は先生が会議、会議の連続。

今日まで2ヶ月以上も会うことが出来なくなっていた。
今日こそはどんなに遅くなっても、先生に会いたいと思ったのだ。

だから、こうして言われてもないのに待っている。

先生の驚く顔が見たいってのもあって、私が待っていることは先生には内緒にしている。

『今日も遅いのかなぁ・・・』
私は机に突っ伏して、目を閉じた。
先生に初めて会ったのは、私が1年生の時。入学式の日だった。

あの時は名前を聞く余裕もなかったな。風のような出来事だったし。
そして、色んな事があった。色々あったけど、今に思えば笑っちゃうような事ばかりだった。
私はウトウトしながら、先生と出会った頃の事を思い返していた。

今思い出しても泣いちゃいそうになった思い出、顔が真っ赤になるような思い出・・・

背が高くて、メガネをかけていて、笑顔が素敵で、教え方が上手で、どんな生徒にも好かれていて・・・まさに私好み。これは、2年前の私が思っていたこと。

2年前・・・
入学式の日、私は裏庭に行った。裏庭には大きな桜の木がある。

樹齢数百年とかで、この学校のシンボルとも言える桜だ。

家から近かったせいもあって、この桜の事は小さい時からよく知っていた。

だから、入学したら、まずこの桜を見に来ようと思っていた。
大きな桜の木は、たくさんの花を咲かせ、裏庭ごとピンク色に染まっているように見えた。

しばらく桜に見とれていた私に、誰かが声をかけてきた。
『君、新入生?』
ビックリして後ろを振り向くと、スーツ姿の男の人が立っていた。

すぐに、学校の先生だとわかった。
『はい。1年B組の佐々木 若菜と言います。』
『あ、そう。君も桜を見に来たの?』
『は、はい。あの、小さい頃から、ここの桜が好きで・・・』
『そうだね。僕もこの桜は好きだ。今まで見た中で、一番きれいだと思うよ。』
『は、はい。私もそう思います。』
『明日から、授業が始まる。忙しくなるから、今日はもう帰りなさい。』
そう言って先生は、校舎の方へ歩いて行ってしまった。

私は、しばらく桜ではなく、先生の後ろ姿に見とれていた。

優しい目、少し茶色い髪、ゾクゾクっとするような低い声。

ずっとドキドキしていた。
あぁ!なんて素敵な先生なんだろう!明日から同じ学校にいるかと思うと、

いっそうドキドキしてきた。これが一目ぼれってヤツなんだろう。

きっと、私の頬は舞い散る花弁のようにピンク色だったに違いない。

春って本当に素晴らしい。早く明日にならないかしら。
それからの記憶はあまりない。お母さんに『あんた、何ニヤニヤしてんの?』って言われて、

ハっと気づいたら家だった。それくらい、ずっと、あの先生のことばかり考えていた。

続く

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