3歩後ろの恋~第4回

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朝倉先生に恋してから、次の化学の授業まで待ち遠しくて仕方がなかった。

相変わらずユカは、私に色んな話をしてくれてたけど、ほとんど上の空だった。

それでも、ユカはお構いなしに話していたけど。

とうとう、待ちに待った化学の授業がやってきた。

その日はテストだと言うのに、私は勉強なんて手につかなかった。

中学の復習とはいえ、さすがに高校のテストだ。

勉強しないでできるほど甘くはなかった。テストは散々な結果だった。

自分でも情けないくらいに。
帰りのホームルーム中もずっとガッカリしていた私に、担任の先生が言った。
『佐々木さん、帰りに理科準備室に行ってください。朝倉先生がお呼びです。』

これは、ラッキーなことなのだろうか。いや、そうじゃない。

テストの結果が悪かったから呼び出されたのだろう。

きっと、お説教されるに違いない。

だって、テストをやると言った時の、あの冷たい目。

きっと、授業に関しては相当シビアなんだろう。

いきなり、最悪の印象だよ・・・
重い足取りで、理科準備室に向かった。

お説教をされるのが嫌なんじゃない。先生に、

どうしようもない生徒だと思われるのが嫌だった。

もっと、よくデキた生徒と思われたかったのに。

ただ、ただ先生が素敵すぎて浮ついていた。

そんな自分がすごく嫌だった。

コン コン
準備室のドアをノックした。

『はい、どうぞ』
中から、いつものゾクっとするような低い声が聞こえてきた。

『失礼します。1年B組の佐々木です。』

先生は、窓際の席に座っていた。そして、何かを書いていたらしいが手を休め、

こちらを向いた。

その顔は、入学式の日、初めて会ったあの日に見た優しい笑顔だった。

先生の笑顔を見たら、テストの点数が悪かった事が頭から抜けていってしまった。

『あぁ。1年B組の佐々木・・・若菜さんだよね?』

下の名前までも覚えていてくれた事が嬉しくて、思わず顔が明るくなった。
『はい!佐々木 若菜です!』

名前を確認した先生の顔が、がらっと真面目な顔になった。
『お前さ、テストやるってわかってたよな?

あの結果は何?お前だけだよ~あんな酷かったの。』
やっぱり、最悪の印象だ・・・そう思ったら泣きそうになった。

そんな私を見て、先生はフって笑ったような気がした。

ドアの所からうつむいて動けない私に、先生は近づいて顔を覗き込んだ。

『こんな事で、泣いてんの?』
生徒が泣きそうになっているのに、朝倉先生は、私をバカにしているような、

何か楽しんでいるような気がした。そう思ったら、だんだんと腹が立ってきた。

『いくら、テストの点数が悪かったからって、

そんな言い方しなくてもイイじゃないですか!!』

つい、大きな声で言ってしまった。

すると、先生は

『自分が出来なかったのを棚にあげて、逆ギレ?』
と、ニヤニヤしながら言ってきた。

私は、恥ずかしいのと悔しいのがごちゃ混ぜになって、教室を飛び出そうとした。

でも、先生に腕を掴まれ、グイっと引き戻されて、椅子に座らされた。

あまりに突然の事で、びっくりして固まってしまった。

目を丸くして先生の方をじっと見た。
先生は、そんな私に聞いてきた。

『あのさ、化学苦手なの?それとも、勉強しなかっただけ?』
私は正直に答えた。すごく小さな声で。
『あの。すいません。勉強してなかったです・・・』

先生は、ちょっとムッとした表情になって独り言のように言った。
『ふーん。高校に入って、気持ちが緩んだか?いるんだよなぁ、

高校に入ったら遊びまくろうって思っているヤツ。』
『あの、そうじゃなくて・・・』

先生はさらにムッとした顔になって、つっかかるように私に聞いてきた。
『じゃ、何?簡単に出来ると思って、勉強しなかったの?』

私は、先生がどんどんイライラしているのがわかってきて慌てた。
『そうじゃなくて・・・』
 また、うつむいていく私の顔。先生は、

下から私の顔を覗くようにその場にしゃがんだ。
『怒んないからさ、正直に言ってみ?』

まるで、いたずらをした子どもを諭す父親のように優しい口調だった。
私は、先生の優しい言葉に、心が軽くなった。

そして、気が緩んで思わぬことを口走ってしまった。
『あの、私、裏庭の桜の所で会ってから、ずっと先生が好きなんです。』

言ってから、ハっと気づいた。私、何言ってるんだろう・・・

急に恥ずかしさ込み上げてきて、軽くパニックになっていた。

言葉が出ないまま、口をパクパクさせている私に先生が言った。

『うん。それで?』

『え・・それでって・・・』

『うん。だから、オレの事好きってのと、今回のテストの点が悪かったのは、何か関係があるの?』

『いや、だから・・・あの・・・その・・・』

『うん。何?』

『あのぉ・・・ずっと先生の事、考えてたら、勉強が手につかなくって・・・

それで、気づいたらテストの日になっていて・・・』

顔は真っ赤だし、自分でも何言っているのかわからなかったし、

とにかく一刻も早くその場から逃げ出したかった。でも、先生の目は、

それをさせない魔法のようで、私は椅子から立つことも出来なかった。

少し、沈黙があって、それから先生は優しく話し始めた。

『そっか。今回のテストは大目にみてやろう。

でも、これから、そんな理由で勉強できなかったとか言うんじゃないぞ。』
そう言って、私の頭をポンと叩いた。

その手の大きさと、暖かさに私の胸は痛いほど締め付けられた。

そして、私が教室を出る時に先生はこう言った。

『それから、オレは若菜みたいな一重の女の子は好みじゃないからな~』
その顔は、いたずらっ子のようで、本心なのか冗談なのかよくわからなかった。

でも、好みじゃないと言われたことより、『若菜』と名前で呼んでくれた事の方が嬉しくて、

ちっとも悲しくなかった。

続く

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